Ein Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend

ドイツ語版ポケモンの第八世代におけるわざ・とくせい・アイテムの名称変更について

おはようございます,Мороже です🛰️*1  アルファサファイアとシールドをドイツ語でプレイした経験があり,現在は LEGENDS アルセウスをドイツ語でプレイしています(←長時間やると画面酔いするので未だにクリアしてない)。

ある日 αS をドイツ語でプレー中に突然 “こだわりメガネ” の訳語が違うことに気づいた*2ので調べてみたところ,第八世代においていくつかのわざ・とくせい・アイテムの翻訳が変更されていたことを知り,日本語圏での情報が皆無だったので解説をつけて記事にすることに決めました。一覧というより読み物としてお楽しみください。

なお変更があった名前の情報は bisafan.de に掲載されている情報をそのまま使っています。ドイツ語が読める方はこちらもご参照ください。 www.bisafans.de

Q. ところで面白そうな話題なのにどうして日本語圏での情報が一切ないんですか?
A. 日本語圏の人は誰もドイツ語でポケモンをやっておらず,当然誰も気付いてないため……

Q. ポケモンwikiに同じような内容が書いてあるけどパクリ?
A. 日本語圏の人は誰もドイツ語でポケモンをやっておらず,僕が編集しているため……

はたく: Pfund → Klaps

der Klaps は “軽く叩くこと” という意味ですが,das Pfund は “ポンド” です。重量単位です。どういうこと?

この奇妙な翻訳ミスはおそらく英語名に起因しています。“はたく” の英語名は pound なのですが,pound には “強く叩く” と “ポンド” の 2 つの別源義があります。つまりドイツ語への翻訳の際,すでに翻訳された英語版の pound という単語のみを見て,ゲーム内でのシチュエーションを考慮しなかった結果,“ポンド” の義を採用してしまったものと推測されます。ずっと Pfund に知らない意味があるだけだと思ってた……

なお第二世代以前のみイタリア語名も libbra “ポンド” と翻訳されていたそうです。まぁポンドの方が確かに有名だとは思うが……

つつく: Schnabel → Pikser

der Schnabel は “くちばし” で、der Pikser は “ちくりと刺すもの” です。

日本語名の “つつく” はもちろん “くちばしでつつくこと” のみを意味する語ではないので,トサキントマンムードヒドイデなどのくちばしを持たないが “つつく” を覚えるポケモンが存在することに矛盾が生じていました。

ちなみに動詞 piksen(ugs. piken) “ちくりと指す” の i は長母音です。ドイツ語の発音は辞書を引かなくても分かると言い張る謎の人をちょいちょい見かけますが,普通に辞書を引かないと分からないので諦めて辞書を引きましょう。辞書とかいうの用例も載ってるのでマジで引き得。

あやしいひかり: Konfustrahl → Konfusstrahl

konfus は “混乱した”、der Strahl は “光線” です。つまり “こんらんこうせん” です。

ちょっと分かりづらいのですが,第七世代以前ではこの技の名前は Konfustrahl で,第八世代での変更で Konfusstrahl となりました。第一世代の時点で “れいとうビーム” が Eis + Strahl → Eisstrahl と命名されているため,意図的なゴママヨキャンセルではなく,単なる誤字だったことが分かります。

へびにらみ: Giftblick → Schlangenblick

das Gift は “毒”、die Schlange は “蛇”、der Blick は “見ること・視線” です。das Gift は “贈り物” ではないです。

初出の第一世代では,どくタイプであるアーボ系統のみがこのわざを覚えるため “どくにらみ” というネーミングが付けられたと思われます。しかし,このわざはそもそも相手を “まひ” 状態 (paralysiert) にするわざであり,またのちにどくタイプではないヘビ型のポケモンツタージャ系統,ノコッチなど)にも配られたため,ドイツ語版においてこのわざは名前と実情が全く噛み合わない状態になっていました。Schlangenblick は素直な翻訳です。

みやぶる: Gesichte → Scharfblick

das Gesicht は “顔・視覚”、scharf は “鋭い”、der Blick は “見ること・視線” です。

Gesichte は正直なんでこの訳が作られたのかよくわからず…… Sharfblick “鋭く見ること” はピッタリの訳でしょう。

ちなみに Krarmor(アーマーガア)の厳選作業中にめっちゃ見かける “するどいめ” は Adlerauge で,これは der Adler “鷲” と das Auge “眼” の合成語です。ポケモン特有の造語ではなく,眼の鋭さを鷲に例えた表現であり,英語でも eagle eye という表現があるそうです。

なりきり: Rollentausch → Rollenspiel

die Rolle は “役割”、der Tausch は “交換”、das Spiel は “演技・プレイ” です。

つまり Rollentausch は “役割交換” です。……それは明確にスキルスワップでは? というわけで Rollenspiel “ロールプレイ” に変更されました。ぴったりな訳語だと思います。

スキルスワップ: Wertewechsel → Fähigkeitstausch

der Wert は “値”、der Wechsel は “交替”、die Fähigkeit は “とくせい”、der Tausch は “交換” です。

Wertewechsel では “値” がなにを指しているのか不明瞭ですね。また der Wechsel “交替” の部分は,後の世代で追加された Krafttausch “パワースワップ”、Schutztausch “ガードスワップ”、Statustausch “ハートスワップ”、Initiativetausch “スピードスワップ” などにおける “スワップ” の訳語 der Tausch “交換” と整合性が取れなくなっていました。変更後の Fähigkeitstausch は直感的でわかりやすい命名です。

ちなみに “サイドチェンジ” も Seitentausch で Tausch が使われており,ドイツ語ポケモン的にはこれもスワップ技だという解釈です。また非常にややこしいですが Seitenwechsel というわざもあり,こっちは “コートチェンジ” です。

ちなみにちなみにゲームシステム的には Tausch は “(通信)交換” のことで,Austausch または Wechsel が “(戦闘中の)交代” です。

トレース: Fährte → Erfassen

die Fährte は “足跡”、erfassen は “理解する” とかの意味が有名ですがおそらくここでは “(データを)キャプチャする” です。

英語 trace およびカタカナ語 “トレース” にはもちろん “足跡” の意味もありますが,特性の内容から考えれば “なぞって複製する” の意味の方でとるのが妥当でしょう。まぁ派生語なこともあって “足跡” でも雰囲気はまだ伝わりますし,なによりポンドより n 億倍はマシじゃないですかね。

ねんちゃく: Wertehalter → Klebekörper

der Wert は “値”、der Halter は “保つもの”、kleben は “くっつく”、der Körper は “身体” です。

先程のスキルスワップでもそうでしたが,Wertehalter では “値” が何を指しているのか結局よく分かりませんね。第八世代では具体的な名称に変更されました。

ちなみに der Körper “身体” が名前につく特性はあと 3 つあって,Buntkörper “ビビッドボディ”、Flammkörper “ほのおのからだ”、Unheilskörper “ほろびのボディ” が該当します。逆に Neutraltorso “クリアボディ”、Charmebolzen “メロメロボディ”、Hydration “うるおいボディ”、Eishaut “アイスボディ”、Tastfluch “のろわれボディ” はこれに該当しません
わざの日本語名との関係はちょくちょく面白いものがあるので,そのうち取り上げてまた記事にするかもしれません。

ぼうじん: Wetterfest → Partikelschutz

wetterfest は “悪天候でも影響を受けない”*3、die Partikel は “粒子”、der Schutz は “防護” です。

“ぼうじん” に対する訳語として wetterfest はそこそこ適訳に思えますが,第六世代以降ではぼうじんは粉や胞子のわざも無効にするのでネーミングと矛盾が生じていました。Partikelschutz は “ぼうじん” の逐語訳としてピッタリでしょう。

ちなみにどうぐの名前としての Schutz は “むしよけスプレー” です。

するどいくちばし: Hackattack → Spitzer Schnabel

hacken は “砕く”、spitz は “するどい”、der Schnabel は “くちばし” です。

Hackattack は韻を踏むことを意識したネーミングだと思われますが,第八世代で直訳に変更されました。

くろいメガネ: Schattenglas → Schattenbrille

der Schatten は “かげ” です。日本語と同様,影と陰は区別されません。das Glas は “ガラス”。

メガネにはガラスレンズが使用されていることから das Glas や das Augenglas はたしかにメガネを指すのですが,die Brille のほうがより日常的な詞です。“ものしりメガネ” の Schlauglas → Schlaubrille 及び “こだわりメガネ” の Wahlglas → Wahlbrille も同様です。

かいがらのすず: Seegesang → Muschelglocke

die See は “海”、der Gesang は “唄”、die Muschel は “貝”、die Glocke は “鈴”です。

Seegesang はそのまま読めば “うみのうた” ですが,ひょっとしたら Seegang “海況” とかかっているのかもしれません(よくわからなかった)。Muschelglocke は素直な翻訳です。

ディフェンダー: X-Abwehr → X-Verteidigung

ここからはそもそも日本語名にあんまり馴染みがないことで知られるバフアイテムたちです。
die Abwehr は “(一般名詞としての)防御”、die Verteidigung は “(ステータスの)ぼうぎょ” です。この変更によって具体的な名前になりました。

スペシャルアップ: X-Spezial → X-Sp.-Ang.

Sp.-Ang. は Spezial-Angriff “特殊攻撃” すなわち “とくこう” の略記です(ステータス画面などでも見られます)。このアイテムがとくこう・とくぼうの分化前から存在していた,かつ分化した際に名前を変えなかったため,X-Spezial という何を上げるのかよくわからない名前になっていました*4

ちなみにスペシャルガードの方は第四世代が初出で,そのときからずっと X-Sp.-Vert. という名前です。

ヨクアタール: X-Treffer → X-Genauigkeit

der Treffer は “命中すること”、die Genauigkeit は “正確性” すなわちポケモンの “命中率” です。

Treffer は “ヒット” と書いた方がしっくりくるかもしれません。たとえば “いちげきひっさつ” は Volltreffer と言います。

スピーダー: X-Tempo → X-Initiative

das Tempo は “(一般名詞としての)速さ”、die Initiative は “(ステータスの)すばやさ” です。

せっかくなので HABCDS のステータスのドイツ語名を全て紹介しておくと,KP, Angriff, Verteidigung, Spezial-Angriff, Spezial-Verteidigung, Initiative です。ステータス画面などでは KP, Angriff, Vert., Sp.-Ang., Sp.-Vert., Initiative*5 と表示されます。

ところでゲームボーイ時代のラテン文字圏言語のポケモンはフォントが横長なわりに画面が狭く,表現を工夫したり長い単語を無理やり略したりと翻訳にかなり苦労していそうな印象が個人的には強いです。かつては benutzt → ben. *6 や gesehen → GES *7みたいな文脈ありきのトンデモ略記も字数制限をギリギリ回避するために使われていました。
トンデモ略記は第三世代で激減し,Erfahrungspunkte → E.-Punkt(e) のような表記は一部に残るもののバージョンが進むごとにだんだん絶滅していきましたが,現在でも Vert. “ぼうぎょ” はステータス表示画面では枠の幅をはみ出さないためにこのような表記になっており,古き時代(?)の大胆な短縮が残っている貴重な例のひとつです。


追記: ちょっと前に書いた同じテイストの記事もぜひよければ見てください🛰

*1:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)

*2:記事執筆よりだいぶ前の話です

*3:das Wetter は無標で “悪い天気” を指します。英語 weather も同じです。

*4:まぁそれを言うと日本語名もそうでは?という話もある

*5:第五世代までは Init. だったっぽい?

*6:わざをくりだしたときに „Gegn. PIKACHU ben. DONNERSCHOCK!“ のように使われる表現です。第三世代以降は einsetzen を用いて setzt ... ein と表記されます。

*7:初代の図鑑で見られます。英語版は SEEN だからこういうときは語形が短い言語はいいなぁって気分になれますね。