Ein Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend (von Duden)

作詞の作法 "押韻" と,日本産ゲームのローカライズ

この記事では歌詞における押韻の文化についての軽い説明と,その文化が日本産ゲームがローカライズされたときにも適用されているという話をします。

そもそも韻とは?

※ 基礎知識の説明なので,知識がある方はローカライズの項あたりまで読み飛ばしてもらって大丈夫です。

一番基本的かつ厳しめの定義としては,ある語について,強勢(ストレス/アクセント)のある音節と(あれば)それに続く音節を切り出して,強勢のある音節の頭子音*1を除いたものです。例えば英語 entertainは -ain が韻で,emergent は -ergent が韻で,orange はそのまま orange が韻です(太字は強勢)。

韻を"踏む" とは?

韻が同じである語同士は互いに韻を踏んでいると言えます。たとえば,英語 entertain と insane はともに韻が /-eɪn/ なので韻を踏んでいます。ドイツ語 Trauben と schrauben は /-aʊ̯bən/ で踏んでいます。フランス語 diminue と statue は,強勢がありませんがとりあえずは語末の音節で考えて大丈夫で,/-y/ で踏んでいます。

脚韻とは?

詩や歌詞の句末/行末で韻を合わせて踏むことを指します。他に途中で踏む行中韻とかもありますが,脚韻が踏み方としては(現代では)最も多く見かけるでしょう。

どの行とどの行で踏むかについてはいろいろ形式がありますが,4 行あって ●◯●◯ or ●●◯◯ or ●◯◯● みたいなパターンで踏むのが多いです。☆●♡● みたいにゆるく偶数行だけ踏むパターンもあります。

日本語の歌詞で韻を踏むことは稀ですが,英語詞,ドイツ語詞,フランス語詞,etc... では韻を踏むのは(踏み方の傾向の違いはあれど)基本的に必須です。一曲通して全く踏んでいないものを見つけるのはそこそこ難しそうなくらいには韻を踏んでいます*2。日本では(この文化がそもそも定着していない*3ので当然ではありますが)まだあまり知られておらず,日本人が作る英語詞は多くの場合韻を踏んでいません。まぁ国内で消費される分には誰も気にしないとは思いますが。

押韻を用いることで,似たような響きの音がリズムよく並びます。これにより聞く人に次の流れを予想させ,全体の流れにテンション・メリハリを付ける効果があります。

実例

文章で説明しててもあんまりピンと来ないと思うので,いくつかの言語の歌詞を適当に持ってきました。韻を踏んでるところを強調表示してみます。

But there's no sense crying over every mistake
You just keep on trying 'til you run out of cake
And the science gets done, and you make a neat gun
For the people who are still alive
(Still alive - Jonathan Coulton)
Sie ist ein Model und sie sieht gut aus
Ich nähm sie heut' gerne mit zu mir nach Haus
Sie wirkt so kühl, an sie kommt niemand dran
Doch vor der Kamera da zeigt sie was sie kann
(Das Model - Kraftwerk)
Миллион, миллион, миллион алых роз (/ros/)
Из окна, из окна, из окна видишь ты
Кто влюблен, кто влюблен, кто влюблен, в них всерьёз (/rʲjos/)
Свою жизнь для тебя превратит в цветы
(Миллион алых роз - Алла Пугачёва)
不管別人的目光有多麼不 (tong)
現在的你就是在台上舞動的 (feng)*4
只要我們相信自己 永遠追求
追尋那快樂美好自由藍天 晴 (kong)

睜開雙(yan) 勇敢向(qian)
握緊雙(quan) 那就會看(jian)
明天 那美好 故事的開(pian)
等 著 你 發 (xian)
(逐夢出發 - 唱:ゼーノ♪跌倒 & セイ★星文 曲:紫外線工作室 詞:熊貓, DNAxCAT第二期OP)
Je me baladais sur l'avenue
Le cœur ouvert à l'inconnu*5
J'avais envie de dire bonjour
À n'importe qui
N'importe qui, et ce fut toi
Je t'ai dit n'importe quoi
Il suffisait de te parler
Pour t'apprivoiser
(Les Champs-Élysées - Joe Dassin)

assonance rhyme

ところで最初の方で,韻の定義を "強勢(ストレス/アクセント)のある音節と(あれば)それに続く音節を切り出して,強勢のある音節の頭子音を除いたもの" と書きましたが,これによる押韻完全韻 (perfect rhyme) という名前が付いています*6

完全韻という名前からも分かる通り,そうでない "ゆるい" 韻も色々あって,それらもよく使われます(常に perfect に韻を踏もうとすると制約がそこそこ厳しいので)。他の韻の種類として今回は類韻 (assonance rhyme) を紹介します。要するに後ろの子音がちょっと違ってたりしても*7母音が合ってればオーケーというタイプで,これで踏むケースは非常に多いです。

類韻の例

次の例では ★ のペア・☆ のペアがともに類韻です。

Die Nachbarn haben nichts gerafft
Und fühlten sich gleich angemacht
Dabei schoss man am Horizont
Auf 99 Luftballons
(99 Luftballons - NENA)

次の例では ☆ のペアが類韻です。

Your best-laid plans can turn upside down if you get too confident*8
Sometimes you will slip and slide if that's Lady Luck's intent
One minute you're riding high, the next you're on the ground
But please remember, whatever the weather
You must take care 'cause
(Accidents will happen - Thomas&Friends)

次の例では ♠︎ の部分で母音が統一されています。

So böse stampfte mein nackter Fuß den Sand
Und schlug ich von meiner Schulter deine Hand*9
Micha, mein Micha, und alles tat so weh
Tu das noch einmal, Micha, und ich geh
(Du hast den Farbfilm vergessen - Nina Hagen)

押韻ローカライズ

メロディー付きの歌の歌詞

もともと日本語で歌詞が付いていて特に韻を踏んでいない歌でも,押韻の文化がある言語向けに翻訳されると韻を踏むようになっているケースが多いです。ここから挙げる例はすべて日本産ゲームが翻訳されて生まれた歌詞です。

羽ばたこうよ
ようやくと
ここまできた
Let's spread our wings, now,
Do anything, now,
Somehow we came this far.

力強い
君の声援
うれしかった
I've got a choice now,
I hear your voice now,
Singing inside my heart.
(Dreams of Our Generation / 僕らの世代!- つんくみんなのリズム天国ED)
小さなつぼみ 奪い合わずに
ともに 守り 育んでいこう
Wo das Glück zart Wurzeln schlägt,
wird zu oft auch Neid gesät.
Fasse Mut – Unkraut vergeht,
doch wahre Freundschaft besteht!*10

咲いた花に 優しさ 添えて
贈りあえば 心 つながる
Wenn die Blüte dann erwacht,
gib behutsam auf sie Acht.
Zeig der Welt ihre Pracht,
gemeinsam zieht aus ihr Kraft!
(KISEKI - 景山将太,ポケモンXY エンディング)
Pleasure…
いとしの メロディー
この身をつつみ
今、放たれた
Le plaisir...
C'est une melodie éphémère
Qui autour de moi s'étire
Et me fait planer en l'air.
(恋するギターのセレナード,逆転裁判4)
あおぞら かけぬけ
くもの たにまを とんでゆく
みろ! あれが われらの
かがやくえんばん カローナ 2ごう
Beyond the great blue sky
Between the gaps in the clouds we will fly~
STOP! LOOK! What's that up there
It's our UFO Corona shining in the air~
(空とぶベイベー,トマトアドベンチャー)*11
(対応する日本語詞不明)
Bis zum Ziel singe ich viel.
Doch das Tanzen lass ich meist sein.
Es ist schwer, wenn in der Beinprothese Holzwürmer gedeih'n.
(かっぺいの歌, あつまれ どうぶつの森 )

テキストでのみ登場する歌詞

事情がちょっと違う例も挙げます。
ポケモン剣盾の冠雪原のストーリーでは,村の村長がブリザポス・レイスポスに関する古より伝わる民謡を歌っています。この民謡はセリフの中でのみ登場,つまりメロディーなしで登場するのですが,ドイツ語版を見ると韻を踏むように翻訳されていることが分かります。

まっしろ 暴れん坊
つめたいにんじん 食べた♪
まっしろは こおりの 色
つめたい 野菜を ムッシャムシャ♪
Der eine Wildling war so weiß wie Eis!
Er wählte die Polarkarotte als Speis. ♪

まっくろ 暴れん坊
くろいにんじん 食べた♪
まっくろは ゴーストの色
くろい 野菜を パックパク♪
Der andre Wildling war so schwarz wie ein Geist!
Er hat die Phantomkarotte verspeist. ♪

同じような例としてORASシーキンセツの社歌の歌詞を挙げてみます。こちらもメロディーはゲーム中に登場しませんが丁寧に●◯◯●の形で脚韻しています。(3 番までありますが 1 番だけ載せます)

晩照らす 108番水道
目覚めよ そびえる 我らがとりで
未来の ホウエン 創るため
休日出勤 上等さ
堀りぬけ 取り出せ エネルギィ
あぁ シーキンセツ シーキンセツ シーキンセツ
Des Morgens früh, wenn holde Sonnenstrahlen
Route 108 aus süßem Schlummer wecken,
Sind wir gleich nimmermüde Recken,
Ohne dessen uns zu rühmen oder gar zu prahlen,
Seit Stunden in der Firma schon
Und ackern, schuften, fördern Energie
Für wenig Geld und jammern nie,
Denn Hoenns Ruhm ist uns der größte Lohn!
Oh Seewoge Malvenfroh!

このような事例からは "歌といえば押韻" という意識が垣間見えていて,とても興味深いですね。

↓ 【ローカライズ関連の記事一覧はこちら!】 ↓

nitrone7.hatenablog.com

*1:半母音はここに入れてもいいし,入れなくてもいいです。中国語の場合一応 "韻" と "韻母" が別の術語なのでその点は注意(韻踏むときは多分考えなくて良い)。

*2:ところで韻踏みの例としてヒップホップが挙げられがちですが,ヒップホップはビートにライムを乗せてノリを作るという点が大事なのであって,踏韻そのものはヒップロックに特有の文化では断じてありません(歌が韻を踏んでいるのはそもそも当たり前なので)。

*3:日本語の押韻論についてはフォロワーさんのさぎしさんが考察しているのでこの辺の記事を読むのがおすすめです。

*4:台湾国語では beng, peng, meng, feng の -eng が -ong っぽくなります

*5:baladais と ouvert は後述する assonance rhyme です(ouvert は r を読む)

*6:説明を簡略化するために省いていましたが,より正確には,perfect rhyme には "音節がゼロ子音で終わってはいけない"・"全く同じ韻(つまり four と for みたいなの)はダメ" という制約もあります

*7:もちろん,音声学的に似ている子音のペアで韻を踏むに越したことはないでしょう(響きは似ている方が良いので)

*8:この -ent の e は通常はシュワーですが,韻が踏めるように e に強勢を置くような発音になっています。

*9:nackter と Schulter は自信ないけど多分 weak rhyme(アクセントのない音節の韻をかぶせてリズムを取る)になっているっぽい?

*10:現代ドイツ語では実質的に ä = e なので,これら 4 行のschlägt - sät - geht - steht は韻を互いに踏んでいる判定です。

*11:非公式翻訳らしいですがローカライズであることに変わりはないので載せます