Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend (von Duden)

語源説明: デリカテッセン “惣菜” に潜む,エッセン (Essen) “食べもの"

ℹ️ この記事は漢字かな混じり文で書かれています。ハングルかな混じり文バージョンはこちらです → 어원해설: デリカテッセン “총채” に ひそむ,エッセン (Essen) “たべもの"


おはようございます,Мороже です🛰️*1 今回の記事ではかなり雑なタイトルから自然言語の小噺を繰り出していきたいと思います。言語知識などは特に必要ないので雑に読んでいってください🛰️*2

TL;DR

lat. dēlicātus > frz. délicat + -esse → délicatesse (+ pl. -(e)n)

エッセン

比較的有名なドイツ語由来のカタカナ語として ‪“エッセン” ← das Essen があります。動詞 essen “食べる” の名詞化で “食べもの” を指します。初級段階で登場する語であることに加え,医療現場では隠語的に用いられるという話もあって,そこそこ高い知名度を誇ります。

デリカテッセン

おそらく皆さんがご存知の通り,デリカテッセン惣菜(または惣菜屋さん)を指すカタカナ語で,略してデリカとも呼ばれます。スーパーなどで見かけることが多いでしょう。

直接の由来は英語であり delicatessen と綴られますが,これはさらにドイツ語 Delikatessen に遡り,delikat “おいしい” と先ほど紹介した Essen を組み合わせた合成語です。こういう風に形容詞と名詞をそのままくっつけて一単語にするのはドイツ語においてよく見られる造語法で,例えば alt “古い” と Stadt “都市” を組み合わせて die Altstadt “古都” ができます。詳しくは 合成語に関する僕の記事もご覧ください。

delicatessen は,東南ヨーロッパユダヤ系移民がニューヨークのマンハッタンで惣菜を delicatessen の名前を使って売り始めたという経緯があり,英語や日本語では惣菜(または惣菜屋さん)を指します。しかしドイツ語では単に “おいしい食べもの” のかっこいい言い方*3みたいな存在感の語なので,たとえば寿司やケーキも普通にデリカテッセンと呼びます。(記事執筆時,試しに大阪の Delikatessen (≠ delicatessen) を調べたらたこ焼きとかお好み焼きを Delikatessen に含める記述が見つかりました)

これら*4はドイツ語では普通に Delikatessen

……さて,上記の語源説明はたまに見かけますし,実際わりと尤もらしそうに見えるんですが,これには事実と異なるよくある誤解が含まれています。

辞書は引き得

ドイツ語のことはドイツ語で調べましょう。というわけで手始めにドイツ語学習者・研究者の生活必需品であるところの DWDS*5の辞書 で Delikatessen を検索してみると……

おっと,Delikatessen ではなく Delikatesse のページにリダイレクトされました。この画像によると Delikatessen は複数形のようですね*6。食べものは Essen のはずなので変ですが,まぁ語尾が変わることくらいよくあるので問題ないでしょう。……ほんまか?

ネタばらし

さて辞書の説明を読んでみると,どうやら Delikatesse には意味が 2 つあるようです。1 つ目の義は “おいしい食べもの” でこれは最初の説明通りで,特に変なところもないんですが,2 つ目の義は “気配り/慎重さ” です。おや?

-esse

突然ですがフランス語の接尾辞 -esse の話をします。形容詞の語幹に附加して名詞を形成します。

triste + -esse → tristesse
▶ 悲しい + -さ → 悲しさ

noble + -esse → noblesse
▶ 高貴な + -さ → 高貴さ

後者は “ノブレス・オブリージュ” のノブレスの部分で有名です。

délicatesse

というわけでドイツ語 Delikatesse はフランス語 délicatesse の借用語で,-esse は食べものと何の関係もないただの名詞化語尾だったというわけです。英語 delicate とも同源であるフランス語 délicat に由来するドイツ語 delikat には “おいしい・気配りのある/慎重な” などの意味があり*7,Delikatesse はその形容詞の意味に対応した “おいしいもの・思いやり/慎重さ” を表す名詞だというわけですね。

要するに Delikatessen に Essen が入っているのは単なる偶然であり,特に関係はありません。

発音

Delikatesse /delikaˈtɛsə; デリカテッセ/ は強勢が 2 つ目の e にあり,a は短母音です。

もし Delikatessen が Delikat + Essen である場合,形容詞 delikat /deliˈkaːt; デリカート/ との繋がりが意識され,Delikatessen は強勢が長母音の a にあることになります。さらに,規範的なドイツ語において母音始まりの語には母音の前に声門閉鎖が入るので,Delikatessen は /deliˈkaːtˌʔɛsən; デリカート・エッセン/ と発音されるはずです。このため,ある程度ドイツ語の知識がある方ならば,“デリカテッセン” に Essen を見出だす説には懐疑を抱くでしょう。*8


さていかがだったでしょうか?今後もなにか話題が見つかればこんな感じの軽いエッセイみたいなものを書きたいと思っています。それでは~🛰️*9

*1:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)

*2:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)

*3:僕自身ネイティブじゃないのでこれは信頼できない記述ですが,Leckerbissen よりは格式高いまたは手の込んだものを指すイメージがあります

*4:左: 大阪・鶴橋コリアタウンの香港飯店 0410 のチャジャン麺,右: 京都 Süßes Vegetus のはちみつバームクーヘン

*5:なんと辞書とコーパスと語源がこのサイトだけで全部完結します。ドイツ語やってる人でこのサイトを知らないのは人生における損失まであるので,知らなかった方は本当に今すぐブクマに入れましょう

*6:複数形で英語に借用された理由はよくわかりませんが,たとえば “おいしい食べものを売るお店” は Delikatessengeschäft になるのでそれの影響とかもあるかもしれません。まぁ der oder das Keks “ケーキ” とかも複数語尾(← 英語 cakes)ついてますしそういうこともある。

*7:本題から離れるので触れませんでしたが,フランス語 délicat はかなり広い範囲を指す多義語である一方,ドイツ語 delikat は “おいしい・慎重な/慎重を要する” の義がメインです。詳しくは DWDS を引いてください。

*8:もっとも英語を経由しているので発音が標準ドイツ語のそれからは変化している可能性があるといわれればそれまでですし,そもそも特に速い発話や南部方言においては声門閉鎖はよく脱落するので,懐疑的に感じることもまた結構怪しくはあります

*9:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)