Ein Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend (von Duden)

ドイツ語のポケモン名を語りたい ~その3(ラウドボーン・テツノツツミ・コノヨザル・タギングル)~

おはようございます,Мороже です🛰️*1 皆さんは巷で大人気ゲームの Pokémon Karmesin und Purpur または 『ポケットモンスター スカーレットバイオレット』はプレーしていますでしょうか?僕はときどき起動しては無限パラボラチャージハラバリー最強❗って言いながら飴とテラスピースを集めています。前作は一瞬しかランクマッチに参加しなかったので,今作は準備が整ったらもうちょっとやってみたいですね。

この記事シリーズは,ドイツ語にローカライズされたポケモンの種族名から好きなものをピックアップして,ドイツ語学習者である自分がその構造について適当に語っていくコーナーです(不定期更新)。内容はドイツ語を雰囲気でやっている一個人の印象・感想でしかありませんのでその点はご容赦ください。ご指摘などは常時歓迎いたしますので,なにかあればコメント欄か Twitter アカウントによろしくお願いします。

今回は新作SVから 4 (+2) 匹ほど取り上げて,そのドイツ語名と由来を紹介しようと思います。冒頭でも警告しましたが,トレイラーに出ていない新ポケモン(including ストーリー最終盤のポケモン)について書くので,ネタバレを回避したい人は「続きを読む」を押さないように注意してください。 Pokémon 1008 ENCOUNTERSの公開を受けてクッションを外しました。

Skelokrok / ラウドボーン

専用技がバリ強いホゲータの最終進化ですね。Krokel → Lokroko → Skelokrok と進化します。3匹に共通する krok はみなさんご存知クロコダイル,に相当する Krokodil に由来しています。Skelokrok は Skelett「スケルトン」とアチゲータ Lokroko のミックスですね。アチゲータの Lo- の部分は日本語名から察するにたぶん lodern 「(炎が)燃える」か……?

……ラウドボーンそのものに関してはこれだけしか書くことないんですが,もうちょっと話したいことがあります。この子のタイプ, "ほのお・ゴースト" なわけですが,同じ組み合わせのタイプの有名ポケモンが思い浮かびませんか?

はい,ほのおゴーストといえばみんな大好きヒトモシですね*2。ところでポケモンをドイツ語でやったことのある方はご存知かもしれませんが,シャンデラのドイツ語名は Skelabra です。ラウドボーンとシャンデラは日本語では全く似ていませんが,ドイツ語では Skelabra と Skelokrok,とても似ていますね。まぁヒトモシ族 SV にいないんだけど……なんでだろうね……

Skelabra は Skelett とラテン語 candēlābra < 単数形 candēlābrum「枝付き燭台」のミックスです*3。みなさんご存知の天井から吊り下げる「シャンデリア」はラテン語 candēlābrum からのフランス語 chandelier /シャンデリエ/,からの英語 chandelier /シャンデリア/ に由来するカタカナ語ですね。ついでに言えばラテン語の蝋燭は candēla で,英語 candle はここに由来しています。光の明るさの単位カンデラ(記号 cd)もこれですね。あとはこれはマジで言語クラスタにしか通じないと思いますが,チャンドラビンドゥのチャンドラとかも同源です。

Botogel / デリバード

日本語名のデリバードがデリバー + バードのゴママヨキャンセルであるように,ドイツ語名の Botogel は Bote「使者・伝令使」+ Vogel「鳥」です。Bote はこれ単独よりもどちらかというと Postbote 「郵便配達屋さん」で使われますね。もっとも Postbote は若干古い言い回しっぽく,現代では Briefzusteller と呼びます。zustellen が「デリバリーする」,Zustellung が「デリバリー」です。

デリバードはわりとそのままなので特筆すべきことはなくて,今回注目してほしいのはパラドックスデリバードもといテツノツツミ(とてもかわいい)ですね。

Eisenbündel / テツノツツミ

こちらもネーミング自体は割とそのままで,Eisen「鉄」+ Bündel「紐で束ねたもの」ですね*4パラドックスポケモンの名前が仮名称っぽいのはドイツ語でも同じです。個人的には英語名 Iron Bundel に倣ってスペース入りの eisernes Bündel でもよかったかもしれない?

バイオレットをプレイしたことがある方は第 2 観測ユニットの前でテツノツツミが Cosima... じゃない,ボタンに襲いかかるシーンが記憶に残っていると思います。普通のデリバードのふりして「デデデデリデリデリ・バー」って鳴き声(?)を発するところですね。ドイツ語版では „Botobotobotoboto! BOT!“ と言っています。ドイツ語的には Bot といえば verbieten「禁止する」の名詞形 Verbot に見られるような bieten「提供する」の名詞形*5が思い浮かんで,さっき書いた Bote「使者・伝令使」もこれに関連する語ですが,現代ドイツ語においてはもっとテツノツツミにぴったりな単語がありますね。

そう,ずばり Bot「ボット」です。

Bot はもちろん英語 bot < robot 由来で使者とは関係ありませんが,未来パラドックスポケモンたまたま Botogel デリバードが採用されたことで,鳴き声のセリフがたまたまロボットとの関係を匂わせるものになっています。

ちなみに robot はチェコ語 robota「強制労働」に由来し,ドイツ語では接尾辞をつけて Roboter です。チェコ語 robota はロシア語 работать「働く」やドイツ語 arbeiten「働く」とも同源,つまりアルバイトとロボットは同源というわけです。

Epitaff / コノヨザル, Affiti / タギング

この 2 匹はどちらも「サル」に関連するよくまとまったネーミングです。説明に使うのでこの記事を読み終わるまでの間,とりあえずドイツ語で猿が Affe であることを覚えてください。英語 ape「類人猿」と同源です。

まずコノヨザルからいきましょう。墓碑銘のことを古典ギリシャ語 ἐπιτάφιος エピタピオス*6に由来したドイツ語で Epitaph /エピターフ/ と言います。日本語でも「エピタフ」と言いますね。ph という綴りは f と等価なので,これを(慣習的ではないですが)表音的に書くとすると Epitaf となります。これと Affe をミックスして無事 Epitaff「コノヨザル」の完成です。追加されたゴーストタイプの要素が明確かつきれいにまとまっている言葉遊びですね。進化前のオコリザル Rasaff < rasen「怒る」 + Affe とのつながりもバッチリです。

なおドイツ語ではアクセントのある短母音の音節のコーダ位置に単独の文字で綴られる子音を置く場合,子音字を 2 つに重ねるというルールがあります*7。逆も成り立つので,Affe の a は短母音です。よって Epitaph は /エピターフ/ ですが Epitaff は /エピタフ/ と読まれるでしょう。

タギングル」に含まれる「タギング」とは英語 tag「(名前やロゴなどをスプレーで)落書きする」の動名詞 tagging のことです。街中の落書きのことをイタリア語由来で graffiti とも呼び,これは古典ギリシャ語 γράφω「かく」 > イタリア語 graffire の過去分詞 graffito の複数形 graffiti「書かれたもの」です。ドイツ語にも中性名詞 das Graffiti の形で借用されていて,Graffiti にはなんととても都合のよいことに aff が入っているので,これを強調するために gr- を落として Affiti「タギングル」の完成です。要するにやってることは既存の単語から 2 文字消してるというだけの非常にシンプルなネーミングですが,とても良いですね。


前回よりもガッツリ書いてみました。正直SV のポケモンに関してはもうネタ切れなので書くことがありませんが,いろいろ思いついたらまた書くと思うのでお願いします。それでは~🛰️*8

↓ 【ローカライズ関連の記事一覧はこちら!】 ↓

nitrone7.hatenablog.com

*1:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)

*2:全国のズガドーンファンおよびアローラガラガラファンおよびソウブレイズファンのみなさん,すみません

*3:なんか複数形由来の candelabra の方が英語では一般的らしい?

*4:Eisensack とかじゃないんだ?

*5:ただし Bot という形が単独で現れることはありません

*6:φ は本来 π の有気音を音価として持つ文字です

*7:Aber beachte: keine Regel ohne Ausnahme. Einige der am häufigsten genutzten Wörter wie weg, hat sowie los (besonders als Interjektion) schreibt man nur der Tradition gemäß ohne verdoppelte Konsonantenbuchstaben. Das ist auch der Fall bei neugeborenen Fremdwörtern wie Bot.

*8:これは pop'n music のパラボーというキャラを表しています(パラボーかわいくない?)