Ein Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend (von Duden)

【未完】ドイツ語の前域に現れる “穴埋めの es”

※【!注意!】※
この記事は 未完です。

ノリノリでたくさん書いてたら急に飽きてしまったので,後半パートと出典が存在しませんが,前半パートまででもそこそこ有用なのでとりあえず公開します。完全版の公開はしばらくお待ちください。

Es waren einmal zwei Brüder, ein reicher und ein armer.

この記事ではドイツ語でたまに見られる「穴埋めの es」とかよく呼ばれてるやつの説明をします。

分かってる人向けの一行解説

主文では [Spec, CP] に定動詞以外の要素を移動させることで適格な構造になりますが,特に候補がなく,EPP によって [Spec, IP] に生成される虚辞の pro を移動させる場合はこれが音素を持つ es となって現れます。*1

↑ 目次をアコーディオンにしたいけど details タグがうまく作用しない(要調査)

主文を作るプロセス

まずは,ドイツ語における主文を構成する手順についておさらいしておきましょう。

  1. 定動詞を 2 番目の位置に置く。(いわゆる V2 移動)
  2. 定動詞以外の要素を 1 番目の位置に置く。

副文においては 2 番目の位置に接続詞があるため,定動詞をそこに動かすことができません。決定疑問文は A. の段階で止め,疑問詞付きの疑問文は B. での移動要素が疑問詞になったものです。

B. における “1 番目の位置” のことを伝統的なドイツ語の文法用語では “前域” (Vorfeld) *2と呼びます。ここにくる句や節は ①旧情報の提示 ② 文の叙述対象の提示 ③強調 などの機能を担います。ただし,これらは明確に分類できるようなものでもないので,まとめて “主題” (Thema, Topik) と呼んでおきましょう*3

さらに,主題に対する内容・記述を “陳述” (Rhema) と呼びます。ドイツ語の主文は,主題と陳述から成る „Thema-Rhema-Gliederung (kurz: TRG)” *4を有します。本記事では分かりやすさのため,前域のことを主題スロットと呼ぶことにします。

例えば,„Just in diesem Moment brach ein Pokémon aus dem Motor des Rasenmähers hervor!“ という文が構成される過程を,主題スロットと定動詞が入るスロットを図示しながら表すとこんな感じです:

[∅] [∅] ein Pokémon just in diesem Moment aus dem Motor des Rasenmähers hervorbrach
↓ (A.)
[∅] [brach] ein Pokémon just in diesem Moment aus dem Motor des Rasenmähers hervor
↓ (B.)
[Just in diesem Moment] [brach] ein Pokémon aus dem Motor des Rasenmähers hervor!

主題スロットにはさまざまな要素が入ります。名詞句や前置詞句や副詞はもちろんのこと,完了形や受動形の受動分詞や,目的語を伴う動詞句なども来ます。

Erstellt werden solche Sprachsammlungen zum Beispiel vom Institut für Deutsche Sprache (IDS) in Mannheim.*5
▶︎ そのようなコーパスは,たとえばマンハイムの IDS によって制作されている。

Mit Feuchtigkeit versorgt wachsen die Weizenpflanzen schnell heran.*6
▶︎ 水分を受け取り,小麦はすくすくと成長する。

(...), denn einen Kuchen kaufen kann jeder, selbst backen ist aber doch persönlich und eine kleine Kunst. *7
▶︎ ケーキを買うのは誰でもできるが,自分で焼くのは親密な行為で,ちょっとした芸術表現でもあるからだ。

穴埋めの es

主題スロットになにも入れるものがない場合は,とりあえず es を入れます。これを “穴埋めの es” と呼んだりします。この es は三人称中性単数人称代名詞と形が同じだけのダミーであり,性・数・格もすべて null です。主題として適切な語をスロットに入れた場合,この es は消滅します。

具体的にこの “穴埋めの es” が現れる場面については,後々の章で詳しく述べます。

何ではないか

よく “穴埋めの es” との混同が見られるものとその説明を載せておきます。

非人称の es

es を主語や目的語にとる動詞は es が格を付与されており,主題化スロット以外の位置にも来れることから,穴埋めの es とは別物です。

Dieser Tage schneit es ununterbrochen.
▶︎ このごろずっと雪が降っている。

Hoffentlich gefällt's dir.
▶︎ 気に入ってくれるといいな。

Wenn es einem schlecht geht, muss man am besten eine Tasse Kräutertee trinken.
▶︎ 具合が悪いときは,ハーブティーを一杯飲むのがいちばん良い。

Drahtlose Netzwerke sind einfach und problemlos einsetzbar, setzen Sie aber der Gefahr von Eindringlingen aus, die esAKK auf ihre Daten abgesehen haben.
▶︎ 無線 LAN は手軽に導入できるが,データを狙う人が侵入してくる危険性も孕んでいる。

形式主語・形式目的語の es

これらの es は明確に zu 不定詞や dass 節などを照応しており,先ほどの説明と同様の理由で別物であることが分かります。

Sein Hobby ist es, Glühbirnen zu sammeln.
▶︎ 彼の趣味は電球を集めることだ。

Bislang ist es noch niemandem gelungen, diese Standards zu einen.
▶︎ 今までにこれらの基準を統一できた人は誰もいない。

Es lässt sich darauf schließen, dass ...
▶︎

受動文

突然ですが受動文の話をします。

定義

これを読んでいる方は受動文がどういうものであるかは分かっているとは思いますが,ちゃんと定義っぽいものを書いておくと: 受動文とは,“主語(動作主) が対格目的語(対象) に対して動作を行う” という能動的なステートメントを,“主語(対象) が前置詞目的語(動作主) から動作を受けている” という形式に置き換えたものです。対象にとってその動作が受動的であることを表しています。

[Die Kinder] haben [diese Papierflieger] gebastelt.

[Diese Papierflieger] wurden [von den Kindern] gebastelt.

あくまで受動文は動作が受動的に行われていることを示すのがその主目的なので,動作主 を表す句は必須ではありません。たとえば不定代名詞 man を主語に立てた文を受動文にしてみましょう。

Wenn es einem schlecht geht, trinkt [man] oft in Deutschland [eine Tasse Kräutertee] .

Wenn es einem schlecht geht, wird oft in Deutschland [eine Tasse Kräutertee] getrunken.

対格目的語を欠くケース

先ほどの定義で “主語(動作主) が対格目的語(対象) に対して動作を行う” と述べましたが,では対象が欠如している動詞や与格目的語を取る動詞の場合はどうするのかというと,(少なくとも見かけ上)主語のない文を作ることができます。たとえば与格目的語を取る動詞 stattgeben “受け入れる・承認する” を使った受動文を作ってみます。

[Die Regierung] hat [dem Ersuchen] stattgegeben.

[Dem Ersuchen] wurde [von der Regierung] stattgegeben.

さらに主語を man にした上で目的語のない動詞を使った文から受動態を作れば,主語も目的語も存在しない文の出来上がりです。

In Japan isst [man] mit Stäbchen.

In Japan wird mit Stäbchen gegessen.

In Südafrika fährt [man] links.

In Südafrika wird links gefahren.

さらに受動部分を主題化した文も可能で,なんと普通に用例もあります。

Getanzt werden darf aktuell nicht.*8
▶︎ ダンスは現在禁止です。

穴埋めの es と受動文の相性

さて,ようやく本題に戻ってきました。

穴埋めの es は,主題スロットに何も入れないときに入れておくプレースホルダーのようなものです。要するに,主題が何もないことを示しています。主題が何もないということは,その後ろの陳述にスポットライトが当たるということです。

そして,受動文は “動作が受動的に行われている” こと,もっというと(特に行為者 und/oder 対象が欠けている場合)動作内容そのものにスポットライトを当てる表現です。これら 2 つは相性が良く,穴埋めの es は受動文でよく表れます。

Es wird ein Neustart ausgeführt.
▶︎ 再起動を行います。

Es darf nicht geraucht werden. *9
▶︎ タバコは禁止です。*10

後者の文は,学校の構内を利用する際のガイドラインの一文であり,主題(たとえば “構内では”)が自明であるため特に言及されていないという文脈があります。もし一般に,主題スロットに移動させる適切な要素があるならば*11,es ではなくそちらが主題スロットに立ちます。

Hier darf geraucht werden.
▶︎ ここは喫煙可能です。

副文と主題スロット

副文は “2 番目の位置” に接続詞が障壁として立ちはだかっているせいで,定動詞が移動できず,そもそも主題スロットへの移動が発生しないため,穴埋めの es も存在しえません。次の 2 つの例を比較してください。

Im Winter ist die Luft feucht und es wird kaum geheizt.*12
▶︎ 冬は空気が湿っていて,暖房もほとんど入っていない。

Im Sommer ist der Gasverbrauch in Deutschland vergleichsweise gering, weil kaum geheizt wird. *13
▶︎ 夏は,暖房をほとんど入れないため,ドイツのガスの消費量は比較的少ない。

非対格動詞

~ ここから derzeit im Aufbau ~

主語と目的語,行為者と対象

漢文で “草が生える” は “生草” だよ

穴埋めの es と非対格動詞の相性

付録

受動文も非対格動詞も単なる “傾向” でしかない

代名詞との相性


*1:これが分かる人はこんな記事読まずにこの論文読んだほうが良いです

*2:前域があるので中域と後域もあります。今回の話とはあまり関係がないので説明は省きます。

*3:本当は ②, ③ のみを主題と呼ぶべきな気もしますが

*4:定訳はなさそうですが “テーマ・レーマ構造” なら見たことあります

*5:von: In der Pause eine Jause - Alltagsdeutsch, DW

*6:von: Was wird aus Weizen? - Planet Schule

*7:von: 耳が喜ぶドイツ語 - 三修社……のつもりだったんですが,なんと 2013 年出版の改定前バージョンにしか載ってない文でした(これどうしよう)

*8:von: Corona: Impfwoche der Berliner Clubs erfolgreich gestartet - Berliner Zeitung

*9:von: Satzung über die außerschulische Nutzung der Schulgelände städtischer Schulen

*10:実はこの文は 2 通りの解釈が可能です。rauchen には “(煙を)吸う” という他動詞があるので,“それを吸ってはいけない” にもなり得ます。実例もあります: G238

*11:ある方が圧倒的に多いと思います,念のため

*12:von: clever fit Fellbach という施設のレビュー

*13:von: Russland drosselt Gaslieferungen - was sind die Folgen? - tagesschau