Ein Heftiges Heft

heftig: 1) von starkem Ausmaß, großer Intensität 2) leicht erregbar, aufbrausend (von Duden)

ドイツ語の動詞の現在形における例外的な幹母音交替

ドイツ語の動詞の現在形の不規則活用は,

  • sein
  • haben
  • werden
  • 過去形型の活用をする動詞(話法助動詞・wissen)
  • 二人称単数・三人称単数で幹母音が交替する動詞

に分かれます。これらのうち,“二人称単数・三人称単数で幹母音が交替する動詞” は以下のような 3 パターンに分類されるという説明が導入される場合が,二外ドイツ語などの初級文法を教わる場においては一般的だと思われます。

  • a → ä
  • e → i
  • e → ie

しかし実は,これらの 3 パターンに分類されない例外的な動詞もごく少数ながら存在します。

幹母音交替の 3 パターンをより細かく正確に

ところで僕としては,上記で紹介した 3 パターンの分類はあまり好ましくないと思っています。綴りとしては確かにこの 3 パターンなのですが,音韻的な考察によって以下のように 5 パターンの交替があると認識するのが良いでしょう。

  • /a(ː)/ → /ɛ(ː)/
  • /aʊ̯/ → /ɔʏ̯/
  • /eː/ → /iː/
  • /eː/ → /ɪ/
  • /ɛ/ → /ɪ/

まず,a → ä と au → äu は聴覚的印象が異なるためとりあえず分けておきます。(これは正直分けても分けなくてもいいと思いますが)

次に e 絡みですが,e の交替は意外と複雑です。たとえば,

  • geben → er gibt
  • brechen → er bricht
  • treten → er tritt

これら 3 つは従来のスペルによる分類ではすべて e → i 型ですが,音韻的に見れば /eː/ → /iː/, /ɛ/ → /ɪ/, /eː/ → /ɪ/ と 3 つの型に分かれます*1。この記事の記述では,幹母音の交替は基本的に音素表記で言及することにします。

例外的な母音交替たち

stoßen /oː/ → /øː/

★ 活用: du stößt / er stößt (stieß, gestoßen)

o がウムラウトするだけなので,/a(ː)/ → /ɛ(ː)/ 型と似たようなものですね。地味に過去形・受動分詞形が唯一無二のパターンなので注意しましょう。

意味は “(+AKK) ~をけとばす,(+gegenなど AKK) ~にぶつかる,(+auf AKK) ~にたまたま遭遇する” 等です。多義語なので詳しくはお手元の辞書を引いてください。前綴りの付いた anstoßen はよく “乾杯する” などの義で用いられ,また verstoßen “(+gegen AKK) ~に違反する” もよく見聞きします。名詞 Anstoß “不快感” も Anstoß erregend “不快感を催す” のようなフレーズでおなじみです。

Wenn das Pokémon eine Beere isst, stößt es diese am Ende der nächsten Runde wieder aus seinem Magen auf und verspeist sie erneut.
(von: die Bezeichnung der Spezialfähigkeit von Farigiraf)

けっこう頻出する動詞ですが,この幹母音交替のパターンがこの動詞一例しか存在しないためか,初級の文法書にはあまり登場しません(稀に見かけることはあります)。

gebären /ɛː/ → /iː/

★ 活用: du gebierst / er gebiert (gebar, geboren)

この動詞は „Er wurde in Hanau geboren.“ や neugeboren のような合成語に現れる受動分詞形がいちばん有名で,実際初級の文法書でもたまに見かけますが,不定形はまず紹介されることがありませんし,実際の文章でもあんまり見かけません。

意味は “産む” です。汎用性が高そうなわりに(受動分詞形以外は)全然見ないの不思議じゃないですか?それもそのはず,比喩的な “産む” の意味範囲は tragen が担当していて(z.B. Frucht tragen “実を結ぶ”, Zinsen tragen “利益を生む”),“子を産む” は ein Kind zur Welt bringen が普通なので,受動分詞以外では基本的にすこし固い oder 古風な表現です。

Aber um das ganz klar zu sagen: Zu diesem Zeitpunkt gab es keine deutsch-französische Lösung, die den Herausforderungen, mit denen wir konfrontiert waren, gerecht geworden wäre. Anstatt einen Berg zu haben, der eine Maus gebiert, war es besser, die Sache zu verschieben.
(von: Deutsch-französische Beziehungen: "Wir sind immer noch der Motor" | tagesschau.de)

«Der Berg kreißte und gebar eine Maus» (または現在時制で Der Berg kreißt und gebiert eine Maus) “山が産気づいて鼠一匹を産む” という諺言があって,やたら持ち上げられたり取り沙汰された割には結果がしょぼいことを揶揄する表現です。ラテン語 «Parturiunt montes, nascetur ridiculus mus» に由来する表現で,日本語では “泰山鳴動して鼠一匹*2と訳されています。引用元の文章は,クソデカ風呂敷を広げるくらいなら問題を後回しにした方がマシだという内容を,この慣用句を意識した “鼠一匹しか産まないような山を持たないようにする” というフレーズで表現しています。

gebären は,unentbehrlich “必要不可欠な” でおなじみの動詞 entbehren “(+DAT) ~が欠けている,(+AKK) ~なしで済ます” と同源です。entbehren は現代ドイツ語では弱変化ですが,元々は強変化であり,二人称単数・三人称単数で幹母音が /eː/ → /iː/ になる型の動詞でした。すなわち gebären も不定形の幹母音がなぜか ä になっている*3だけの /eː/ → /iː/ 型とみなしても良いでしょう。

また,現代ドイツ語においては多くの言語変種で /ɛː/ が /eː/ に合流していることを踏まえて,(スペリングで見ると依然例外的ではありますが)支障なく /eː/ → /iː/ 型の交替とみなすのもよいでしょう。

erlöschen(intr.) /œ/ → /ɪ/

★ 活用: du erlischst / er erlischt (erlosch, erloschen*4)

にわかには信じがたい活用をしていますね……初めて見るとびっくりすると思います。

意味は “(炎・光などが) 尽きる,消える” です。より簡単な語で言い換えると ausgehen ですね。上記の gebären の不定形や現在形より見かける機会は多いと思います。

Ich werfe einen letzten Blick auf ihren leblosen Körper. Und dann erlischt meine Flamme.
(von: YouTube - Pokémon Hörspiel 1: Laternectos Feuer! - Fanfiction (最後らへん)*5)

この動詞はかつて erleschen という形であり,ゆえに本来は /ɛ/ → /ɪ/ のパターンに分類される規則的な幹母音交替動詞でした。e > ö の音変化は一部の単語で sporadisch に発生していて,たとえば zwölf や Möwe の ö は e に由来します(vgl. E. twelve, mew gull)*6

なお,同綴りの他動詞 erlöschen “(炎・光などを) 消す” は弱変化です。元々は他動詞のみで /ɛ/ > /œ/ が起きていたため,erleschen - erlöschen という自他のペアだったのですが,不幸なこと(?)に合流してしまい現代の形となりました。 erlöschen と同様に löschen も本来は自他のペアを持っていましたが,自動詞の löschen が絶滅したため,現代ではその用法は erlöschen が取って代わっています。

*1:ただし geben はかなり例外的な曲者で,幹母音交替活用の動詞の中では(自分が確認する限りでは)唯一 /iː/ を i と綴る動詞です(そもそもドイツ語において /iː/ を «i» で書くこと自体が例外的です)。たとえば lesen → liest のような他の動詞では /eː/ → /iː/ を原則通り «e» → «ie» と綴っています。geben を無視して,“綴りが «e» → «i» になるものの中には /eː/ → /ɪ/ となる例外がある” という但書を入れた従来の 3 パターン分類のほうが説明としては簡潔かもしれません。geben がこういう綴りになっている理由は自分の調べた限りではよくわかりませんでした。詳しい人教えてくれ~

*2:BMS 楽曲の『下水鳴動して鼠一匹』はこれを着想元にしていると思われます(BGA微グロ注意)

*3:自分の調べた限りではよくわかりませんでした。詳しい人教えてくれ~2

*4:過去形および受動分詞形は quellen や schmelzen と同じパターンです

*5:これわりと好きな動画なんですけど,“ドイツ語を聞いて理解できる” と “ランプラーが好きである” の両方の条件を満たす友達がおらず布教に失敗しています……

*6:この記事を読んだhsjoihs「zwölf や Möwe は fünf (< fimf)と同じで前後の唇音の影響を受けたウムラウトでは?」 ぼく「あ〜あれか!確かに〜」 hsjoihs「ところで erleschen を見てみましょう,なんと両唇音がありませんね」 ぼく「なんで??????」